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東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)29号 判決

原告

九重味淋株式会社

右代表者

石川泰彦

右訴訟代理人弁理士

小原和夫

外一名

被告

株式会社豊島屋本店

右代表者

吉村忠吉

右訴訟代理人弁護士

寒河江孝允

同弁理士

鈴江武彦

外三名

主文

特許庁が昭和五一年一月二二日、同庁昭和四七年審判第七〇三三号事件についてした審決を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実《省略》

理由

一原告主張の請求原因第一、二項の事実については当事者間に争いがない。

二そこで、原告主張の審決取消事由の有無について判断する。

(一)  審決が本件商標を附した酒類が昭和四四年八月頃から三年間東京地方において製造又は販売されたことがない事実を認めながら、商標法第五〇条第一項の規定によつて登録商標の商標登録を取り消すためには、「日本国内において」当該登録商標が不使用であることが要件であつて、単なる一地方のみの不使用の事実では不十分といわざるを得ないとの判断を示めしたことは当事者間に争がないところ、原告は、右判断は挙証責任の原則の適用を誤つたものである旨主張する。

しかしながら、審決文は措辞適切を欠く憾みはあるが、前後の文脈からみて、東京地方における不使用の事実を証明しただけでは、商標法第五〇条第一項所定の日本国内における不使用の事実を推定しうるにすぎず、反対事実の有無を論じないで直ちに日本国内における不使用の事実を肯認することはできない旨の判断を示したにすぎないものと解するを相当とする。原告の主張は採用できない。

(二)  〈証拠〉を総合すると、本件の審判手続において、被告が本件商標を愛知県所在の内藤醸造株式会社に大正時代から使用させている旨を主張し、これに対し、原告が昭和四八年六月一二日特許庁受理の弁駁書を提出してその事実を否認して立証の用意があることを申立てたこと、被告が上記被告主張の事実について何らの証拠も提出しなかつたこと、がそれぞれ認められ、他にこれに反する証拠はない。また、審決が原告は上記被告の主張に対し、何んら争つておらず、これに反する証拠も提出していない旨判示したことは当事者間に争いがない。

そうすると、審決は、本件商標を愛知県所在の内藤醸造株式会社に大正時代から使用させている旨の被告の主張について、当事者に立証を促し、本件商標が不使用であるか否につき審理すべきであつたにかかわらず、原告の弁駁を看過して誤つて争いない事実とし、ひいて商標法第五〇条第一項の不使用の事実は認められないとしたもので、違法であるといわざるを得ない。この点についての原告の主張は理由がある。

三よつて、本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(杉本良吉 舟本信光 小酒禮)

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